アジアを中心とした海外投資家による、日本不動産への投資ニーズが高まっています。アベノミクス効果が追い風となって円安・株高が進み、経済環境が好転。資産の分散投資先として注目されているようです。20年の東京五輪開催が決定したこともプラス要素として受け止められ、投資熱に拍車を掛けて、アウトバウンド投資に着目した動きも出始めています。一方、ニーズに対する日本の不動産会社側の体制は整っているか。国境を超えた不動産取引に対する、各社の対応を2回に分けて探ります。
台湾を中心とした東アジアの投資家向けに、日本の不動産を販売しているラルゴ・コーポレーション(東京都千代田区)の山本治男社長は、「海外投資家からの引き合いは非常に増えている」と話す。安倍政権発足前と比べて倍増しているといいます。特に目立つのが台湾の個人投資家。数億円の予算で、都心部の商業ビルを1棟またはその一部分、区分所有マンションなどを購入するケースが多いようです。台湾では現在、不動産価格が高騰しているため、収益物件を購入しても利回りは2~3%程度にとどまっています。一方、日本は低下しているとはいえ5~6%の利回りが見込めます。親日家が多いこともあり、そういった自国よりも利回りが高く、安値感のあることが魅力となっているようです。
東京・六本木に事務所を構えるプロフェスサービスも、台湾投資家がターゲット。現地不動産会社と提携し、日本への投資セミナーを昨年11月から開催しています。これまでに2回開催し、各30人の参加でそれぞれ5件と8件の成約を得ました。宮澤伸幸社長は、「日本市場に対する全面的な信頼感が、投資熱に拍車をかけている」と話しています。原発や地震に対する不安も皆無ではないようですが、日本に対する信頼感がそれを凌駕する流れです。「物件が不足している状態。日本の新築オーナーも今が売り時のチャンスだと思う」(宮澤社長)と語っています。次回セミナーは2月15日に開催。当面は毎月1回の頻度で開く予定です。
この〝投資熱〟の傾向はいつまで続くのか。前出の山本社長は、「もともと日本人よりも、国民性として不動産投資で自分の資産を増やすことに対して関心は高い。世界の主要都市と比べて日本はリーマンショック後の不動産価格回復が遅れている。割安感がある間は海外投資家の勢いは続くだろう」と分析しています。
「情報の発信」を重視
投資需要の概要について、「アベノミクスの前から反響、成約数共に伸びている。ボリュームゾーンは2~3億円の物件だが、中には200億~300億円クラスを求める個人事業主もおり非常に幅広い。居住用だけでなく、区分所有のコンビニやファストフード店など、20億~30億円程度の商業施設も需要がある」と語るのは、東急リバブル・ソリューション事業本部営業統括部の牧野高樹海外営業部長。国籍は台湾やシンガポールが中心で、直近は東京だけでなく、福岡や沖縄など地方都市へも投資先が広がっているということです。同社は11年から、海外投資家に対する取り組みを本格化。中国語圏を対象とする海外営業部を立ち上げ、翌12年2月には上海現地法人を設立しました。続いて、主にシンガポールを拠点とする英語圏の投資家に着目。外資系企業出身者や欧米人の雇用を進め、専門部署「グローバル・ビジネス・デベロップメント・グループ(GBD)」を発足させ、シンガポールの不動産会社と提携しました。GBDの長谷川富司担当部長は、「うまくスタートが切れた」と手応えをつかんでいる様子。機関投資家や富裕層の個人へのアプローチを、着々と進めています。目的はもちろん、仲介案件の獲得。ただ、「海外のお客様に満足してもらうのは簡単ではない」と牧野氏。日本の仲介業者として努力すべきポイントに言語対応、税制・送金規制など各国の制度への精通、そして〝情報発信〟を挙げています。「日本の不動産に対する評価は元々高く、海外投資家は興味を持っていた。それにもかかわらず、こちらからの発信が足りていなかった」(牧野氏)。同社では主要7都市の市況レポートや、東京23区のオフィス賃料推移などをニューズレターとして投資家に配信。配信先は現在、約500件に上ります。牧野氏は市況情報だけでなく、商慣習も伝えるべき重要な要素だと説いています。不動産取引の慣行は国や地域によって千差万別。「例えば日本では売主、買主双方が仲介手数料を支払うが、シンガポールでは買主が仲介手数料を負担することはない」(同)。また、一般に借り手優位とされる借地借家法が、場合によっては特異な印象を持たれることもあるという。それでも日本で不動産を買う以上は、投資家に「日本特有の取引慣行を理解してもらう必要がある」(同)ということです。