空き家の数が増加の一途をたどっています。総務省の最新調査(13年)によりますと、全国の空き家は820万戸で、5年前の前回調査と比べて63万戸増加しました。また、この数から別荘や売買用住宅などを除いた、いわゆる老朽化などで放置されていると見られる「その他の住宅」は318万戸(前回比50万戸増)。そのまま放置すれば自然倒壊の危険、また、犯罪の場に使われる恐れもあります。自治体でも空き家の適正管理を促す条例などで対策を講じる動きが出ていますが、更に一歩進んだ独自の取り組みで、この問題に正面から取り組む自治体も現れています。
東京都世田谷区では、地域の交流拠点を創出する空き家活用のモデル事業を行っています。13年度は3件が選定され、そのうちの1件は老朽アパートの1階部分を改修し、デイサービス施設としたもの。空き家を再生するだけでなく、地域活性化につながるコンセプトが高く評価されました。東京都世田谷区でこのほど、空き家(空室)を活用し、「地域の多世代交流拠点づくり」を目指す事業がスタートしました。13年度の「世田谷らしい空き家等の地域貢献活用モデル」に選ばれたものです。
物件の場所は、小田急線成城学園前駅から徒歩約30分の場所。築数十年の2階建て木賃アパートの1階部分を、デイサービスに改修したもの。デイサービスへの活用事例自体にそれほど珍しさはありませんが、今回の物件は、「地域の人が集い、交流を生み、活気ある町にすることを目指す」という点で、一般的に見られる空き家活用とは一線を画しています。
物件オーナーの安藤勝信さんは、「空き家も地域資源。地域貢献できる資源再生を考えた」とし、2階部分はそのままアパートとして使用している。物件の最寄り駅は、都内では人気駅の一つに挙げられる成城学園前。しかし、徒歩30分の距離と築古が影響し、計6室のうち1階部分の3部屋は長年空室が続いていました。安藤さんが何らかの再生(リノベーション)策を練っていたところ、祖父が倒れた際にお世話になった社会福祉法人大三島育徳会と協議し、1階部分をすべてデイサービスに改修することとなりました。このほど改修工事が終了し、9月1日からオープン。広さは約90m2で定員は10人です。今回の改修の大きなポイントは、デイサービス施設のほかに「オープンスペース」を設けたこと。ここが、地域の交流拠点の核となります。
分かりやすく説明すれば、1階部分の5分の4がデイサービス施設で5分の1がオープンスペース。入り口はそれぞれ別途設け、内部で交流が図れる設計としました。オープンスペースでは、地域野菜の即売所や楽器演奏会、折り紙教室といった催しを開催し、デイサービスを利用する高齢者もそこで楽しむことができます。また、催しに参加した地域住民は、「ボランティア」として高齢者の話し相手になり交流が生まれます。「地域の人が気軽に集い、気軽に高齢者と話をし、楽しめる空間」(安藤さん)。オープンスペースにはコーヒーメーカーを設置し、住民がお気に入りの本を持ち寄る図書コーナーも今後用意する予定です。
約半年でリニューアルは完了しましたが、介護事業者、オーナー、設計者それぞれの視点からくる意見の違いなどがあり、「ようやく完成にこぎつけられた」(安藤さん)といった心境だといいます。単なるデイサービスではなく、「地域住民が気軽に集い、皆が楽しめるデイサービス」を目指したため、それぞれが「こだわり」をぶつけ合い調整が難航しました。また、実際にデイサービスを運営する現場担当者の丸山真吾さんは、「そもそも、当初はデメリットだけが頭に浮かんだ」と話しています。サービスを提供する側にとっては、利用する高齢者だけでなく集まる地域住民にも目を配る必要が出るからです。その結果サービスの質が落ちてしまっては本末転倒となります。悩んだ結果、生み出した答えが、「集まる地域の方々は、高齢者と接してくれるボランティア」というもの。「高齢者に集まった地域住民との交流を促し、地域住民にも高齢者の話し相手などをお願いする。賑やかな場になるでしょうね」(丸山さん)
物件の収益性向上だけでなく、その地域を活性化させる取り組みは「空き家活用」の理想型。「今後どうなっていくか…、私自身、期待しています」(安藤さん)。