14年4月に消費税率が8%へと引き上げられた後、住宅・不動産業界は「反動減」の影響を大きく受けました。それは、新設住宅着工戸数が6カ月連続で前年割れしていることからもよく分かりますが、自民党税制調査会では、更なる消費税率引き上げに向けた検討を本格化しています。そんな中、工業市場研究所が行った調査からは、住宅購入検討者の「悲痛な叫び」が見てとれる結果となりました。仮に10%へ増税となった場合は、軽減税率など住宅に対しては何らか負担を軽くする策が求められそうです。工業市場研究所が、首都圏・近畿圏在住の25~65歳のマンション購入検討者450人に対して行ったアンケート(調査時期・10月中旬)によりますと、消費税率が10%に引き上げられた際、購入計画に「影響する」と答えた割合は72.2%に上る結果となりました。4月の5%から8%への増税の際は、その回答割合が58.5%だったことを考えますと、10%増税に対するインパクトが強まっていることが分かります。また、「影響する」と答えた人にその内容を聞くと、「予算の見直し」が最も多く46.5%、次いで「購入時期の先送り」(20.6%)、「増税前の駆け込み購入」(20.3%)と続き、「購入計画そのものの見直し」も18.5%の割合に上りました。
短期間で負担大幅増
ニッセイ基礎研究所上席主任研究員の篠原二三夫氏は、「増税が行われると、先行きの所得環境の伸びが期待できない状況下では、需要はその分だけ間違いなく減る」と語っています。安倍政権は経済重視の政策を打ち出し、「負担増」に耐えられるだけの基盤作りに励んでいますが、その効果が一般家庭にまで行き渡っているとはいえない状況です。また、「税率を9%上げるのに40年の期間を費やしたドイツがあるように、他の国では長い時間を掛けて税率アップに取り組んでいる」(篠原氏)といいます。仮に10%への増税が決まれば、わずか1年半の間に税率を5%も上げる日本。篠原氏は、「それだけ追い込まれているのだろうが、市場への悪影響を考慮し、様々な対策を講ずるべきだ」と指摘しました。
工業市場研究所の調査でも、「高い買い物に消費税10%はつらい」(東京都、30~34歳)、「住宅取得後の維持や相続に関する税制も気になる。購入自体を考え直す状況が続いている」(東京都、55~59歳)、「良い物件でも消費増税以降の引き渡しであれば、購入をあきらめるかもしれない」(神奈川県、45~49歳)など、消費者の苦しい現状を語る声が並んでいます。また、住宅に対する負担軽減策としての希望で最も多かったのが「住宅ローン減税の拡充」(64.4%)、次いで「税金分の払い戻し制度の創設」(52.4%)、「軽減税率の適用」(48.2%)となりました。
欧米諸国の例
税負担分の軽減という意味で「払い戻し」や「軽減税率」は分かりやすい制度ですが、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアといった先進諸国では、住宅に対する軽減税率などの導入が既に行われています。軽減税率は、高所得者よりも低所得者の負担が増える「逆進性」を緩和させるために、特に食料品における税率で議論されることが多いですが、「これらの欧米諸国では、『国民生活にとって最も必要かつ重要な財であるかどうかによる』という基準で決められる」と篠原氏は語っています。その「重要財」の中に、食料品と共に住宅も位置付けられています。
社会保障費の財源不足から、税収を上げなければならない状況にあることは誰もが理解しています。ただ、税の負担が増えるとその分だけ需要が落ち込み、結局は見込まれる税収を確保できなくなる恐れも出てきます。それが内需の大きな柱である住宅の場合だと、景気も悪化するという悪循環も。更なる増税を検討する際に求められるのは、大局的観点です。