日本銀行が発表した「マイナス金利」の追加金融緩和策が、不動産業界に〝追い風〟をもたらすか注目されています。業界が「有力な融資先」として金融機関に選別されることが予想され、また、住宅ローン金利の引き下げも想定されるからです。今回のマイナス金利は、需要側(一般消費者)、供給側(事業者)双方への好材料となりそうな気配ですが、今後の動向などについて専門家らに話を聞きました。
1月29日の日銀によるマイナス金利導入発表後、その日のうちに不動産関連株は値上がりを見せ、東証リート指数は2月1日以降、1800ポイント台の水準となっています。不動産業界への好気配を市場が即座にキャッチした格好です。その後、株価は全体的に乱高下を繰り返している状況ですが、今回の「マイナス金利」が不動産業界へ好影響を及ぼすのではないかと指摘されている要因は、業界特有の「レバレッジ効果」です。特にディベロップメント事業においては、資金の借り入れによりその効果が何倍にも引き上がる効果があるため、金融機関にとっては有力な融資先となり、業界にとっても低金利の資金調達により、これまで以上のレバレッジ効果が期待できることとなります。その好循環で更に業界へと資金が流れることになり、これはJリートの世界でも同様です。
ただ、専門家は比較的冷静な見方をしています。マクロ経済が専門の富士通総研・米山秀隆上席主任研究員は、「有望な新規開発案件が残っていれば融資先としての可能性はある。ただ、オリンピックまでの開発案件の多くは既に仕入れが終わっている状況だ。資材や用地取得価格が高止まりの中、新プロジェクトを考える事業者、そして金融機関にとって魅力的な開発と映る事案が出てくるかどうかは不透明」と話しています。ただ、融資先を模索する金融機関にとっては、不動産業界は一つの大きな選択肢であることに変わりはなく、更に住宅ローン金利が引き下げ方向に向かうことは「一般消費者の住宅取得能力が上がることになる」(米山氏)ため、業界にとっては好材料となります。マンション動向に詳しい不動産経済研究所の松田忠司企画調査部主任研究員は、「マンション業界に資金が流れれば用地取得も積極化し、近年敬遠され気味だった郊外エリアでの供給が増える可能性もある」と指摘。そして、「消費増税を前にしたこのタイミングで、住宅ローン金利が下がる傾向になることは一般消費者の大きなメリットになる」としています。
今回のマイナス金利政策は、一般消費者にとっては「住宅ローン金利の引き下げ期待」といった形で表れます。金融機関が住宅ローン金利を決める際の一つの大きな指標となる「10年国債利回り」が低下するためです。1月29日には金融機関などによる国債購入の買い優勢の影響で価格が上昇し、金利は0.095%となり史上初の0.1%台を割り込む結果となりました。住宅ローンの金利はこれまでも「史上空前の低金利」とされてきましたが、国債利回りがこれまで以上に低水準となることから、住宅ローンは更なる低金利のステージへと入ることが予想されます。
2月1日の住宅金融支援機構の発表では、長期固定型住宅ローン「フラット35」の2月適用金利(融資率9割以下)を前月比0.06%下回る1.48%としました。また、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、りそな銀行は、主力の10年固定型住宅ローンの金利(最低水準)を1.05%としました。みずほ銀行を除く3行が1月と比べて0.05ポイント引き下げましたが、日銀の今回の発表が1月29日(金)の月末午後だったことを考えますと、2月の各金融機関の住宅ローン金利にはまだまだ反映されていないことが予想されます。3月以降は更なる引き下げも期待されるところです。