必要な「受け皿」整備
(前回の続報をお届けいたします)「ここ最近、本部やグローバルサイト(Gサイト)にインバウンド投資の反響がくるようになった。増減はあるが、概ね毎月20件程度に上る」。こう話すのは、不動産フランチャイズ事業を展開するセンチュリー21・ジャパン(東京都港区)経営企画部の高橋龍二部長。件数の把握は難しいが、同様の問い合わせが加盟店へも寄せられているといいます。Gサイトとは、米国のC21国際本部が昨秋開設した、世界各国の物件情報を集約したサイト。加盟店が専任の物件情報を自国言語で入力すると、自動で翻訳される仕組みです。対応可能な言語は18。直近にかけてロシアやオランダ、韓国などが新しく参加し、現在約30カ国の加盟店経由で約30万物件が登録されています。C21・ジャパンも、開設当初よりこれに参画。日本の加盟店の利用も増えつつあり、現在300店以上が売買物件を掲載中です。こうして窓口は整いつつあるものの、高橋氏は「Gサイトへの関心も含めて、加盟店の間には温度差がある」と話しています。英語や中国語が話せる人材をそろえたり、香港などからエージェントの駐留を受け入れたりする事例がある一方で、多くの加盟店は対応強化に二の足を踏んでいるのが実状だということ。「第一に言語が障壁」(高橋氏)となり、更に売買後の管理に関して、手間が掛かることがあるためです。例えば売買後は、投資家に代わり国内で確定申告などの手続きを行う納税代理人を立てることになりますが、仲介業者がその世話を手掛けるケースが想定されます。しかし、特に投資物件が小規模な場合は手数料や賃料収入が少なく、そうした実務を引き受けると割に合わなくなってしまいます。高橋氏は、「(日本の不動産会社側の)受け皿も少しずつ整備していかないと、実際の取引件数を伸ばすのは難しいのではないか」と指摘。同社本部としてもそのフォローに力を注ぎつつ、Gサイトの活用を引き続き呼びかけていく考えだそうです。
重説、契約書は日本語
外国人を相手に売買契約を締結する場合、契約書や重要事項説明書などの書面は、英文対応などとなっているのか。大手不動産会社各社はいずれも、現状は、日本国内での不動産取引であるため原則、「日本語による契約書と重要事項説明書」で契約を取り交わしています。英語版の契約書を作らないのは「内容を正しく英訳するのが難しいため」で、買い手が自らの責任で通訳などを雇ってもらったり、代理人を立ててもらったりする形で契約を進めています。日本企業が外国で契約する際は、現地の契約書で行うのと同じ。また、ローンについては、外国人向け商品がある外資系銀行して紹介しています。ただ、現地に出向いて日本物件の商談会を行う場合や国内で相手方の要求がある場合は、英文の契約書を参考資料として用意する、とする企業もあるようです。不動産投資のグローバル化が進む中で、英文の契約書などは欠かせない対応に思えますが、解釈などに齟齬(そご)があってはならない性格のものだけに、現実はなかなか難しいようです。
海外への投資、今後拡大か 取引慣行の違いに注意も
一方でアウトバウンド投資の需要はどうでしょうか。「インバウンド投資と比べると、活動は活発ではない」(東急リバブル)、「海外転勤に伴う仲介案件はあるが、個人投資家の依頼は少ない。まだ黎明期と言っていい」(C21・ジャパン)。将来性がありつつも、現在はまだ波がきているわけではないようです。その到来が、間近だという意見もあります。不動産コンサルティングを手掛けるさくら事務所(東京都渋谷区)の長嶋修会長は、「今年は海外不動産への投資が流行する」と予測。日本の不動産価格が、上昇基調にあることが根拠です。割高感が増す中で、アジアを中心に割安な海外へ目を向ける投資家が増える、とみています。同時に長嶋氏は、需要拡大に伴うトラブル増にも言及。アジア圏では、「青田売りの物件で資金難から工事が中断するケースや、管理の概念がなく『売りっぱなし』の事例もある」と警鐘を鳴らします。この点については国土交通省も、国内の不動産会社に注意喚起する形で対策に乗り出しています。昨年末、関連業界団体に向けて「海外の宅地建物を本邦内において取引する際の購入者の保護等の推進について」という通知を出しました。不動産業課では、「数は少ないが、『英語で書かれた契約内容の意味を理解せずにサインし、後でキャンセル不可能であることを知った』といった事例もあります。(アウトバウンド投資が)ポピュラーになりつつある段階で、予防的な意味で通知を出した」と話しています。