現在、国交省が進めている「情報ストックシステム」の参考となった米国のMLS。 年間取引の約8割を中古住宅が占める米国の不動産市場を支えるMLSの実態を探ります。日本は、20年近く前にアメリカから当時のMLSの原型をレインズ ( REINS) と言う形で導入したものの消費者に対してのサービス向上と共に、既存住宅流通の流動性を高めるためには、より新しいシステム導入が必要ではとの動向が目立って来ているようです。
年間取り引数の約8割が既存住宅、2割が新築というアメリカの不動産様相にMLSがどのように絡んでいるか? 売り手と買い手にとって売買の決断を早め、蓄積した物件データと売り物件、取引価格歴史の公開情報など、アメリカで作られたMLSの実態を少し深く探ってみたいと思います。
MLSとは、Multiple Listing Serviceの頭字語です。1800年代後半から現在のNAR (全米リアルター協会) の前身にあたる地方の協会は、同業者に声をかけ、定例会を持ち、「私の売り物件を売るのを手伝ってください。私も貴方の売り物件を売るのを手伝いましょう」の精神からお互いの売り物件の情報を公開して、情報の共有ばかりでなく、共同取引を提案し、相互利益を尊重するルールを作り始めました。これがMLSの原型です。
1908年にアメリカ全国の地方協会に声をかけ、今日の全米リアルター協会がシカゴに設立した後は、この会員のなかでの共有情報、共同取引方法は、全米に広がって行きました。1913年、まだ各州の不動産業務に関する法律が確立する以前に、NARは、業者同士の利益と業務尊重、お客様への誠意を認識するために倫理綱領 (Code of Ethics)を作成しました。倫理綱領は、今日もNARの支柱となる精神です。
MLSの概念は、それから進化を始め、今も刻一刻と進化し続けています。システムも倫理綱領も時代時代に後れないために、毎年の改良や追加が行われています。
現在、情報を駆使した、MLSの管理会社は、全米800以上にもなり、各地方の不動産会社がその業務運行に深く携わり、売り物件の情報は、もちろん過去に売れた物件の蓄積された取引の歴史や、価格が公開され、対象物件近辺での最近の取引価格の比較ができ、売り手も買い手も納得できる価格表示、取引交渉ができ、流通を早める必須のツールとして使われています。MLSの情報は、不動産業者用のウエブサイトとそれを一般客に分かり易いデザインに変え、多少簡易化した消費者用のウエブサイトと両方があります。売り手は、近所で売れている物件取引価格が見られ、不動産業者と相談をし、価格表示を出しますが、一方、近くで売れた物件価格などは、買い手も見ることができるため、買い手なりの判断を含めて、価格交渉が行われますが、比較参照資料が手に入りやすく、かなり納得のいく範囲で取引が行われます。
無論、経済動向や、寸時の不動産傾向に対応するためには、いくらデータが売り手や、買い手に入手可能でも専門業者である不動産業者のコンサルティングは、欠かせません。新しい土地に移る買い手にとって地方の学校、コミュニティーの情報に精通し、しかも取引手続きなどを一つ一つ説明し、安心して取引を完了するためには、専門業者が欠かせないのです。
地方により、年代は、違いますが、MLSの会社が各地方の協会に共有物件情報の定期本などを出版し始めた時代は、多くの業者が共有情報を他の業者や、消費者に悪用され、取引を盗まれないか? 業者の存在が軽視されるのでは? など疑惑もありましたが、高額な金銭が伴う取引の不動産売買は、専門業者無しで素人が知人でもない売り手と買い手との間で行うことは、非常に困難なことです。また、MLSの業務ルールは、業者同士の尊重ルールとそのパトロール機能を徹底し、罰金や、閲覧ができなくなる事態にならないよう、業務指導されています。
MLSの共有情報には、統一契約書も含まれていています。業者は、MLSの管理する一つの契約書の内容勉強に集中でき、契約内容への精通度が高まり、売り手買い手に より正確な契約内容の簡易説明も容易になりました。不動産法は、各州が作りますが、統一した契約は、寸時変わる州の不動産法を反映する行程も簡単化できました。不動産法改訂の告知や教育も統一化できました。お客様に正確な行程や法律を説明しやすい環境を作ることで、業者の業務責任のリスク管理もできると言う事です。