自由民主党の所有者不明土地等に関する特命委員会(野田毅委員長)は5月24日、同委員会の議論を集約した提言を作成、公表しました。2018年に作成した前回の提言を発展させたもので、相続発生時の登記申請を「義務化も視野に」から「義務付ける」に改めるなど、より実効力を重視した表現が見られます。
同提言のタイトルは「利用重視の理念の推進~『土地は利用するためにある』~」。近年社会問題化している所有者不明土地への対策のため、2018年に政府の関係閣僚会議が作成した2020年までの「工程表」に沿って、施策の方向性を打ち出しています。
これまでにも、2017年の「中間取りまとめ」に対する不明地利用円滑化特措法や、前回の提言に対する表題部所有者不明土地登記・管理適正化法など、提言内容は新たな法律の整備に結び付いています。今回の提言では、土地基本法や不動産登記の「抜本的見直し」を強く主張。土地の所有権や所有者の意思を重視する現行制度に対し、土地の利用や管理、所有者の責任といった〝公共の福祉〟優先の制度への転換を促しています。
そのため、土地基本法を改正して土地所有者の責務を明確化することや、不動産登記制度を見直して「相続発生時に登記申請を義務づけること」などを訴えています。相続登記の義務化に当たっては、手続きの簡略化や費用負担の軽減なども併せて行うよう求めます。
さらに、今回は「所有権の放棄」についての記述を拡充。放棄要件や最終的な受け皿など、具体的な制度設計については「関係省庁が一体となって検討を」としているものの、土地を手放す手段の創設を進める姿勢を明確にし、土地所有者の情報を把握する仕組みについても、関連する法令の整備を推進します。
登記簿と戸籍などを紐付けて、所有者情報をスムーズに把握するための制度や、外国人など海外に住む土地所有者についても所在地を正確に把握する仕組みの検討を求めました。
さらに行政による情報把握だけでなく、民間への情報提供にも前向きで、戸籍や不動産登記簿、固定資産課税台帳といった目的別のデータを連携し、土地所有者情報の捕捉体制を構築した上で、「登記簿の公開のあり方についても検討すべき」としています。加えて、民間による空き家・空き地の円滑な利活用を後押しするため、民間事業者が必要な情報を取得できるよう、土地所有者情報の提供のあり方を検討すべきとしました。
特に土地所有権の放棄などについては、国土交通省の国土審議会土地政策分科会特別部会などでも議論を進めており、同じく2020年までに土地基本法や関連法令を改正する方針を示しています。不明地の〝受け皿〟や開発時に支障をきたす不明地への対処、相続登記の義務化、情報公開制度など、民間事業者への大きな影響が予想される部分については、今後の行政の動きに注目が集まりそうです。