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Jリート市場、本来の成長軌道に回帰。本格的な分配金増加は来年以降

Jリートの市況を示す東証リート指数は、日銀の継続的な投資口の買入、制度改正、リートの自助努力などによって、年初に1100ポイント台にまで回復しました。1年間で、約30%の上昇でしたから、上昇ペースとしては早すぎた感があるかもしれませんが、この時点では、NAV倍率(時価ベースの1株当たり純資産と投資口価格の比率)やイールドスプレッド(リートと国債の投資利回りの差)は、過去の平均水準に戻ったにすぎませんでした。すなわち、投資口価格の絶対水準が上がりすぎたというわけではなく、08年に起きた世界的な金融危機の影響で、実力以下の評価となった投資口価格が、適正水準の範囲内に入ってきたプロセスであったと言うことができます。

その後、アベノミクス効果もあって、1月から3月にかけて投資口価格の上昇スピードは加速度を増し、3月27日には年初来の最高価格1700.91ポイントにまで上昇しました。わずか2カ月で50%近く上昇したことになります。この上昇スピードは、明らかに行き過ぎでした。この当時、不動産賃貸市場、特にその中でもボリュームの大きいオフィスビル市場の市況は徐々回復に向かいつつありました。オフィスビルの空室率は低下し、それまで下落が続いていた賃料の下落にも歯止めがかかりつつあったのです。多くの投資家が「もう暫くすれば、オフィスビルの賃料が反転上昇に向かい、リートの分配金も増えるだろう」と予想していました。ところが、分配金の増加はまだ先の話ですから、分配金の上昇に先行する形で、投資口価格が上昇したのがこの時期であったと言えるでしょう。

アベノミクスの金融財政政策の効果については、多くの識者によって意見が分かれています。賛否両論ある中で、最も大きな見解の相違点は、人々の将来の景気や生活に対する「期待」を動かすことができるかどうかにあります。多くの人々が将来に対する明るい期待を持つようになれば、家計の財布の紐が緩むので消費を増やしますし、企業も設備投資を増加させます。この結果、景気はよくなります。しかし、「期待」を動かすことができなければ、何の効果もないばかりか、円安などによる物価高が家計を直撃することになります。ところが、不動産や株式などの「資産価格」に関しては、アベノミクスはプラスに働くということで、多くの論者の意見は一致しているようです。その意味では、リートの投資口価格のオーバーシュートは、十分に想定される事態でもありました。a1180_010121

しかし、この時期のリートの運用会社の社長インタビューでは、誰もが投資口価格の上昇スピードに警戒感を抱き、「今後はむしろ、分配金の増加に連れて投資口価格が上昇することが望ましい」という認識を持っていたように感じます。06年から07年にかけてリートの投資口価格が急騰したときには、一部ではありますが、業界の中でもう少し甘い将来見通しも聞かれたので、リートの運用会社自体も多くの経験を蓄積し進化してきたと言うことができるでしょう。

投資口価格は4月以降に急落しますが、6月半ば頃から反転上昇し、その後再び下落したものの、最近ではほぼ1300~1350ポイントの水準にあります。投資口価格の急落には、益出しのための地銀の売りとJリート投信の資金流出が大きな影響を与えました。それでも年初から見れば、2割弱の上昇ですから、客観的に見れば、今後の分配金に対する「適正な成長期待」を織り込んだ本来の成長軌道に戻りつつあると考えられます。ポイントになるのは分配金が増加に転じるタイミングです。一部のSクラスビルでは賃料の上昇も見られるようになっていますから、既存テナントとの賃料更改時期の到来、フリーレント期間の解消とともに、これから分配金の増加が期待できると考えられますが、本格的な増加は来年以降になる可能性が高そうです。